PART 2
「いい国(1192)作ろう!」
「鎌倉幕府!」
「泣くよ(794)ウグイス!」
「平城京!」
「ブーッ!はずれ」
「何ーっ!」
翔が慌てて正樹の持っている教科書を覗き込んだ。
「平安京の方だよ、兄貴」
と、正樹が答えを指差した。
「くそーっ!もう一回!」
「それじゃ行くよー、以後良く(1549)伝わる…」
「ねえ…ちょっと良い?」
めぐみがそんな二人のやりとりを止めた。
「どうでも良いけど、せめて歩きながらはやめてくれない?」
すれ違う人の目が恥ずかしそうにめぐみが言った。
しかし、翔は気にしない様子で。
「フッフッフ…甘いな木々原」
「はあ?」
「ウサギと亀を知ってるか?」
「そりゃ知ってるわよ」
「つまり、俺達が亀、おまえはウサギと言うことだ」
「はあ…?」
めぐみは呆れながら徐々にヒートアップして行く翔の理論を聞いた。
「誰も勉強しない今こそ!他の奴を突き放すチャンスなんだ!」
「突き放す………『追い付く』の間違いじゃない?」
「うぐっ!」
図星だった。
めぐみの放った一言が矢となって翔の胸を貫いた。
「そして、当日の今にそこまでやってると言う事はつまり!」
翔の鼻先に指が突き付けられた。
「自信がないわね?」
その言葉がとどめをさした。
『自信がないわね』頭の中でそれが何度も何度も反響し、思考回路がショートを起こす。
「う…う…うわああああ!!!」
「兄貴ーっ!」
パニックに陥った翔は頭を抱えて、脱兎の如く駆け出した。
「ちっくしょーっ!絶っっっっ対に受かってやるからなーっ!」
負け惜しみに捨て台詞を残し、翔は去った。
ついでに正樹も追いかけて去った。
「あっはっは!あ〜、受験前の良いストレス解消になったわ」
晴れ晴れとした顔でめぐみが笑った。
「何だかめぐみさん余裕だな…」
不安げに光一が呟いた。
「そんな事ないわよ、リラックスしておきたいだけよ」
「そうそう、そんなに緊張しても力は出せないからね」
落ち着かない光一の肩に手を置いて、純が励ますように言った。
「大丈夫だよ、光一兄ちゃんだって頑張ったんだから」
「う、うん…」
大地も励ますが、まだ光一は不安そうだった。
「あ、それじゃあ、あたし達も問題出し合って行こうか?」
「じゃあ僕から出す!」
場の雰囲気を変えようとする木々原に大地が手を上げて続いた。
めぐみは自身満々で何でも来いといった感じだ。
「それじゃ第一問!意欲に(1492)燃える…」
「大化の改新!」
「全然違うよ木々原…」
大丈夫か、本当に?(ちなみに1492年はコロンブスのアメリカ大陸発見である)
試験は国語、数学(算数)、社会、理科、英語の順に進んだ。
一貫教育制をとるこの学校は中等部、初等部からの生徒の進級テストも兼ねており、競争率は他校と比べてはるかに高かった。
6人は全員合格を目指し、ひたすら問題を解いた。
そんなテスト中の事だった…
(…あれ?)
純から右前の席にいる木々原が妙な動きをしているのに気付いた。
何やら試験官の目を盗んで細かくちぎった消しゴムを投げている。
(何してるんだろう…?)
すでに問題を解き終えていた純はしばらくそれを見てみることにした。
消しゴムの飛んで行く先を見てみると、翔の頭が不自然に低いのが見えた。
(まさか……)
そう、翔は寝ていたのだった。
めぐみはそんな翔を見つけ、必死に起こそうとしていたのだった。
何度頭に消しゴムが当たっても一向に翔は目を覚まさない。
いい加減に消しゴムも尽きた木々原は投げる物を変更した。
ヒューーーーン……………プスッ!
「うぎゃああああーっ!」
絶叫と共に翔が目覚めた。
木々原が投じたシャープペンシルは見事な放物線を描き、翔の頭に命中した。
しかし、先程の音とリアクションからもわかる通り、先端が翔の頭に突き刺さったのだから彼としてはたまったものではない。
(よしっ!)
そんな非常事態を気にすることもなく、めぐみは起こした事にガッツポーズを決めていた。
静かな会場で騒いだ翔は試験官から厳重注意を受けていた。
純はその頃、呆れて額を押さえていた。
それから時は流れ…ついに発表の日となった。
「いよいよね…」
「うん」
純が頷いた。
正樹、光一、大地も続いて頷いた。
この日、待ちきれなかった六人は発表の数十分前に校門に集まっていた。
厳しい現実を実感させるように今日は一段と風が冷たかった。
大地とめぐみは寒さと焦りからか、先程から周りを落ち着きなく歩いていた。
「あ〜、何だか不安だぁ!」
頭を抱えて大地が悶える。
「落ちたくないー!」
「大丈夫だよ。みんな頑張ったんだし」
「そう言ってる純兄も不安なんじゃないか?」
言葉を詰まらせて純が頷いた。
平静を装っているつもりだったが、やはりバレバレだったようだ。
「よくそんなに平然としていられるわね?」
翔だけが表情に余裕があった。
「へへ…実は俺すっごい自身あるんだよ」
「何よ?答えでも盗んだの?」
「んな訳あるか!ちゃんとした根拠があるんだよ」
胸を張って翔がニヤリと笑う。
どうやら強がりではなさそうだ。
「何よ、根拠って?」
「俺がメインキャラクターだからだ」
「はあ…?」
「俺を落とすとキャストが減るだろ?」
「話の裏側を出すな!」
パコーン!!!
冷や汗をたらしながら光一と大地が取り繕う。
「ま…まあやっぱり『神のみぞ知る』って所だよね?」
「そうそう!『人事を尽くして天命を待つ』とも言うしね」
「正確に言えば『作者のみぞ…』」
「もっぱつ殴ろうか?」
「…やめます」
「あっ!出てきた」
光一がいち早く気付いた。
生徒達がどっとざわめく。
教員がボードに長く巻かれた紙を貼っていく。
周りに生徒が一気に集まる。
「僕達も行こう」
純の呼びかけに六人は歩き出した。
不思議と不安が薄れ始めていた。
ボードの前に辿り着くとゆっくりと息を吸い、お互いの顔を見る。
一人一人頷き、合図を送った。
六人は、同時に結果を見ることにしていた。
最後に光一が顔を上げた。
「せーの!!!…」
そして――――――――
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