PART 2
「ゴメン、今日もダメなの…」
「ああ…しょうがないな」
今日で三日目だった、めぐみが純達と一緒に帰らなくなってから。
毎日「家の用事」との事だったが、理由を何も言わずに帰るめぐみに翔は段々不信感を募らせていた。
「なあ純、変だぜ」
「何が?」
二人だけの帰り道の途中、翔が不意に立ち止まって言った。
「木々原がこんなに俺達に隠し事するなんてあったか?」
「う〜ん…そう言えば無いね」
長年、ほとんど隠し事も無く共に過ごしてきただけに、余計に翔は気になるのだった。
「な〜んか怪しいな…」
「翔、疑い過ぎだよ。木々原にだって家の事情があるんだから」
「う〜ん…」
もはや、純の言葉は翔の耳に入っていなかった。
そして翌日……
キーンコーンカーンコーン……
「起立!礼!」
いつもの様に礼を済ませて一日が終わった。
純が帰りの用意を済ませた時、翔がやって来た。
「純、行くぞ!」
「え?」
「良いから来い!木々原、今日はワリィ!俺達用があるから帰る!」
「う…うん…?」
翔の勢いにめぐみも押されて意味も無く頷いた。
「ちょ、ちょっと翔!?」
何が何だかわからない内に純を連れて翔はめぐみの前から姿を消した。
「まったく…一体何なんだよ?」
校舎裏にまで引っ張られてようやく純は解放された。
「ほら、これ」
翔は鞄から何かを取り出すと純に手渡した。
それをよく見ると、トレンチコートにサングラス、マスクといった、見るからに怪しい代物だった。
「…これは?」
答えは大体想像できたが、とりあえず純が聞く。
「変装セットだよ」
純は大きく溜息をつく。
「…何で?」
「木々原をつけるに決まってんだろ」
「何でそんな必要があるのさ?」
「謎を調べるのさ。『木々原めぐみ、放課後の行動』をな」
「そんなプライバシーの侵害も良い所…」
「シッ…木々原だ」
翔の言葉に純が思わず口を閉じた。
結局、翔に強引に連れられて純もめぐみの後を追う事になってしまった。
「う〜ん…これといって不審な行動は無いな…」
「この道は木々原の帰宅ルートだしね」
二人はめぐみから数メートル離れた電柱から彼女の様子を伺っていた。
もちろん、あの怪しげな変装セットを身に着けてであった。
「ところでこの服、どこから持ってきたの?」
「演劇部の奴から借りてきた」
「なるほど…」
「おっ!木々原が曲がるぞ!」
めぐみを見失わない様、二人は急いで後を追った。
「よし、いるいる…」
めぐみの姿を確認し、二人は安堵の息を漏らした。
「よし、このまま後を…」
「ちょっと君達」
後ろからいきなり野太い声で呼びかけられ、二人は驚いて振り向いた。
そこにいたのはいかつい顔でこちらを睨んでいる警官の姿だった。
「君達は何をしているのかね?」
「あ…いや…その」
「ちょっとそこまで来てもらおうか」
「ちょっと待て!俺達は怪しい奴じゃねえ!」
「その格好は十分怪しい!」
「だー!離せえ!」
どうやらこの怪しい外見からか、付近の住民が不審に思って通報したらしい。
警官は純と翔の腕を掴むと、力強く引っ張った。
「離せっての!」
ドスッ…!
「ご…おお…」
必死に抗う翔は思わず蹴りを飛ばしていた。
しかもそれは警官の股間にダイレクトに決まっていた。
ちなみに翔はサッカー部に所属していてエースストライカーだった……
警官の手が離れ、彼はその場にうずくまった。
「い…痛そう…」
「やばっ、逃げるぞ!」
「う…うん…」
「こ…こら……待て……」
翔の行為に後ろめたさを感じながら二人はその場から全力で走り去った。
途中、振り向くと、警官は激痛に耐えながら股間を抑えて内股の格好で二人を必死に追っていた。
足さばきは小股でシャカシャカと小刻みに動き、必死の形相と苦悶の表情が重なった顔に、その格好が加わって非常に気味悪く見えた。
「待てぇ〜〜〜!!!」
「ひえええええ!!!」
「ねえ…今日はどうしたの二人とも?」
翌日、めぐみは疲れきって机にうつ伏している二人に声をかけた。
「ちょっと昨日…街中走り回ったものだから…」
「ああ…俺も…」
「ふ…ふ〜ん…」
生気の抜けた顔で話す二人に、めぐみは一歩引いた。
「青春するのは良いけど、体力を考えなさいよ………あ、こんな時間。それじゃ、あたし行くね」
「うん…」
「ああ…」
もはや今日は尾行しようという気すら失せていた。
二人はあの後、街中を一回りした後、何とか警官を巻いたのであった。
「なあ純…」
「何…」
「俺さ…あの警官夢に見た…」
「…あの格好で?」
「ああ……」
「…………」
「…………」
「……僕も…」
ぐったりとして二人は大きな溜息をついた……
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