PART 3


キーンコーンカーンコーン…

チャイムが鳴り、屋上にいた光一は溜息をつきながら教室に戻る事にした。

教室に戻るとほとんどの生徒が既に席についており、先生が来るまで騒いでいた。

光一も自分の席に戻ろうと机と机の間の通路を通った。

「うわっ!」

いきなり足に何かが当たり、光一はバランスを崩して前のめりに倒れ、顔を強打した。

「痛たたた…」

「アハハハハハ!!!」

「バーカ、何やってんだよー!」

その姿を見たクラスメイトはそろって笑い転げていた。

光一はそれを気に留めずに席に付いた。

しかし、引出しを開けた瞬間、光一は絶句した。

中が水びだしになり、教科書やノートはふやけて使えなくなっていた。

「クスクス……」

その様子を楽しむかの様にどこからか笑い声が聞こえた。

よく見ると机の上にも鉛筆書きで落書きがしてあり、「バーカ」「死ね」「親なし」などと悪口の嵐が一面に書かれていた。

光一はとりあえず雑巾で水をふき取り、破けない様に丁寧にノートや教科書を開いた。

先生が来てからも、席が後ろの方だったので、先生がその様子に気付く事はなかった。



「先生」

下校の時刻になり、光一は意を決して先生に話にいった。

「何だ?」

「あの…実は僕…………いじめられてるんです」

笑顔で振りかえった先生の顔がすぐに険しくなった。

「僕をいじめているのは…」

「あのな、和泉」

「…はい」

先生は真剣な顔で光一と目線を合わせると、ゆっくりと言った。

「ちょっと考え過ぎだと思うぞ。もしかしたら向こうはふざけてやっているのかもしれないんだから」

「違うよ先生!僕は」

「あまり被害妄想に走るもんじゃないぞ」

「先生!」

「……わかった。先生が何とかしてみよう」

「本当!?」

「ああ、頑張ってみる。だから今日の所は早く帰るんだぞ」

「はい!」

光一は嬉しそうに教室を後にした。



「おい、光一!」

それから数日、昇降口で光一は不意に呼び止められた。

振り向くとそこにはいつも光一にちょっかいを出している四人組がこちらを睨みつけていた。

「な…何?」

おどおどしながら聞く光一を四人は取り囲んだ。

「お前、先生に言いに行っただろ?」

「そ…そんな事してないよ」

「嘘つけ!」

下駄箱に光一が押しつけられる。

「言ったらどうなるかわかってんだろうな?」

「やめてよ…」

「うるさい、こっち来い!」

「やめてったら!」

光一は腕を掴んだ手を振り解くと四人の包囲から飛び出した。

「待て!」

四人はすぐに追いかけ、追いついた一人が光一のランドセルを掴んで引っ張り、転ばせた。

「うわぁ!」

膝をすりむき、光一が転がる。

体勢を起こしたときにはすでに周りを囲まれており、逃げ場がなくなっていた。

「それ!やっちまえ!」

「うわあああ!!!!やめてよ!誰か助けてよーっ!」

しかし、光一の叫びに救いの手を差し伸べるものはいなかった。

「ったく、弱虫のくせに逆らうからだよ」

「ゲホッ…ゲホッ……うえっ……」

地面の上で体をくの字に曲げて光一は悶えていた。

「あれ?こいつペンダントなんかしてるぞ」

「あ、本当だ!」

「しかも金ぴかじゃん!」

「貰っちゃおうぜ!」

「だ…ダメだよ!!!これは絶対にダメだよ!」

光一が力一杯ペンダントを握り締める。

「うるせえな!よこせよ!」

「嫌だ!」

必死に抵抗したが、四人には勝てず、光一は無理やりペンダントを奪われてしまった。

「返してよ!僕の宝物なんだ!」

光一は痛みを堪えて必死に食らいついた。

「うっせえなー!離せよ!」

一人が力一杯光一の背中を蹴り飛ばした。

「ぐうっ……」

力が抜け、光一は倒れた。

「うう…母さん…兄さん…」

笑いながら去っていく四人の後ろ姿を目で追いながら光一は涙を流していた。



「……こんな事があったんだ」

光一は膝を抱え、空を見ながら静かに呟いていた。

「ねえ…僕……幸せになれないのかな?それとも……幸せになっちゃいけないのかな?教えてよ…母さん」

光一の後ろには墓石があった。

そこには「和泉家の墓」と彫ってあった。

「母さん…僕………疲れたよ…」

涙を流しながら光一は顔を伏せた。

「母さんの所に行きたいよ……」

「……光一」

「え…?」

名前を呼ばれ、光一は振り向いた。

そこには純が息を切らせて立っていた。



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