「あー、疲れた!」

練習が終わった俺は自販機で買ったペットボトルを口に運んだ。

四月も後半になるとやっぱり春だ、結構あったかい。冷たいポカリスウェットが凄く身に染み渡った。

「最近練習キツイよな」

チームメイトも苦笑しながら「そうだな」と返してくれた。

俺は吉村和斗。

たった一つの『ある事』を除いて、ごく普通の高校二年生の十七歳。

ちなみに、サッカー部に所属しているんだが、もうすぐ隣町との対抗試合がある。

だから練習も厳しくなっているのだ。

実際、うちは県大会は毎年上位の常連校。

対して相手の学校はそんなに名が売れている訳じゃないが粘り強い守りと隙を上手く突いたカウンターが評判で、最近めきめきと力を付けて来た注目校。

格好良く言えばプライド。

悪く言えば『新参者に負けてられるか!』って所だ。

「お、吉村。良いもん持ってるな」

「あっ!」

俺の手からまだ一口しかつけていないポカリが消えた。

「キャプテ〜ン!」

「固い事言うなよ」

と、一口飲むと俺に投げ返した。

「…………」

これってキャプテンが口付けたんだよな…

「おいおい吉村、お前何恥ずかしがってんだよ。こんなん間接の内に入らねえだろ?」

「う〜…まあ」

「そんなんじゃ彼女の一人もできねえぞ」

「か、彼女は関係ないじゃないですか!」

そうなのだ、俺の悩みと言うのは実はこれ。

はっきり言って俺はこういう事に免疫が全く無い。

男同士でも飲み回しみたいな事が出来ないのだ。

相手が女子なら尚更、メチャクチャ苦手なのだ。

手を繋いだことはおろか、会話すらろくにした事がない。

実際会話をすると二分と顔を見ていられない。

それを知っててキャプテンや友達にからかわれる事もしばしばだった。

「ったく…じゃ、俺先に帰りますよ」

このまま居るとまたからかわれるだけなので早々に俺は戦略的撤退を決め込んだ。

(彼女ねぇ……)

正直彼女は欲しい。

しかし、自分の体質がそれを許してはくれない。

原因は昔から近所の友達も、学校に通うようになっても男友達しか居なかった事だろう。

友達は「ウブ」だとか「純粋だ」とか言うけど俺だって彼女は欲しいし、その為にこの体質は治したいと思ってる。

でも……………どうすりゃ良いんだ?

「おにーちゃ―ん!」

「ん?」

俺がドアを開ける前に一人の女の子が飛び込んできた。

「ん?加奈子か。どうした?」

キャプテンの妹だ。

試合にも応援に来ていたし、練習が終わるたびに部室にやってくるからもうすっかり部員とは顔馴染みだ。

「ねー、早く帰ろうよ〜」

「たまには一人で帰ったらどうだ?」

「やだよー、暗いもん」

そんな他愛もない会話をして、結局キャプテンは満更でもない顔をして一緒に帰った。

仲が良いな、相変わらず……

「う〜ん、良いね〜♪」

何時の間にか隣に立っていた友達がにやけた顔で呟く。

「そんなに良いものかな〜?妹って」

「何を言う!」

拳を振り上げて力説する。

「お前には判らんのか!あの『お兄ちゃん』の一言に込められた魔力を」

「ま…魔力?」

「そう!あの言葉には千軍に匹敵する力が込められているんだ!!」

「千軍ねえ……」

「何だその腑抜けた反応は!あんな可愛い妹に『お兄ちゃん』と言われる!この萌えが判らないなんて罪だ!」

な…なんだそりゃ…(汗)

そう言えば最近は十人近くの妹が居るって設定のゲームなんてのもあったな。

そんなに良いものかな?妹って……

まあ、姉か妹でも居たら少しはマシな体質になっていたかもしれないな…



「たっだいまー!」

鞄をベッドの上に放り投げ、着替えるとすぐに一階に降りた。

「母さーん、腹減った!」

「ハイハイ、ちょっと待ってて」

そう言ってフルスピードで包丁を動かす。

相変わらず速い……あれほどのスピードで食材を切る人は他に見たこと無い。

下手すりゃ火を使わない調理ならマジで三分クッキング出来るかも…

そんな事を思ってると後ろから声が掛かった。

「おう、お帰り親父…あれ?」

今日の親父は何故か背広じゃない。普段着だ。

「会社帰りじゃないのか?」

「ああ、今日は休みだ」

納得した。何故か親父の会社には休みがやけにあるからだ。

社長の誕生日休日なんて普通の会社じゃないだろうな……

「あー、和斗。ちょっと話があるんだが…」

「あ…ちょっとトイレ行ってからで良い?」

俺は何か真っ先に言いたそうだった親父を後にトイレに向かった。

何だろう?進路のことか何かかな…?今は勘弁して欲しいんだけどなあ…

そんな事を思っている内に俺はトイレを出た。

ん……?誰か風呂の電気がついてる。

「また親父か……」

親父は風呂に入った後によく電気を消し忘れる。

そのお陰で前は一晩中つけっぱなしで母さんが滅茶苦茶怒ってたのを憶えてる。

全く、料金もタダじゃないのにね。

ガチャ……

明かりのスイッチを切ろうとした矢先、誰も居ないはずの風呂の戸が開いた。

「あ……」

「え……?」

しばらく俺は硬直した。

「きゃ…きゃああああああああああ!!!!」

「わ!わわわわわわわ!!!ゴメン!」

耳をつんざくソプラノの叫び声で俺は我に帰り、思わず後ろを振り向いた。

後ろでは女の子が体を隠してうずくまっていた。

だ……誰だ?誰なんだこの女の子!?




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