俺たちは四人で四角い机を囲み夕食を食べていた。

全員無言で飯を食う。

物凄く空気が重苦しい。

いまだかつてこれほど居心地の悪い食卓が存在していたであろうか。

俺の左側には例の女の子が真っ赤な顔で俯いている。

時々こちらを見て俺と目が合っては真っ赤になって目を逸らしていた。

無理も無い…出会いが「アレ」だけに意識してるんだろうな…

実は俺自身この子の顔を正視できない。

ヤバイ…思い出したら鼻血が……

「え〜、ゴホン!実はだな、和斗」

全員が飯を食べ終わると、親父がひっっじょ〜〜〜〜に言い難そうに話し始めた。

俺も女の子も目をやる。

「……この子はお前の妹なんだ」

「…………………はっ?」

俺の耳がおかしくなければ今“妹”と聞こえたんだが…

「親父……今何て言った?」

「この子はお前の妹だと言ったんだ」

………なんですと!!!???

当然、にわかに信じられるはずも無く、俺は唖然とした。

「あ、あの!私、朝美って言います!」

相変わらずの気まずい雰囲気の中、朝美と名乗った女の子はペコリと頭を下げた。

「ちょ…ちょっと待て!」

半ばパニックになりかかりながら俺は思わず叫んだ。

ビクッ!と朝美が体を竦ませた。

「どう言う事だよ!『妹が生まれる』とかならまだ分かる!いきなり『この子はお前の妹だ』だと!?」

「やっぱり変か?」

「変だろ、普通ーっ!!」

無神経な親父の反応に半ば俺はキレかけてきた。

「隠し子か?それとも養女とかなのか!?」

「養女じゃないのよ」

沈黙を保っていた母さんが話し出した。

「お前が生まれた次の年……この子が出来てね。だけど、その年にお父さんの会社が倒産して二人とも育てる余裕が無くなっちゃったのよ。そんな時に…ホラ、北海道の叔父さんと叔母さん。あの人たちが引き取ってくれるって…あの人たち、丁度娘さんを事故で無くした時だったから」

「じゃあ何で今まで言ってくれなかったんだよ!」

「ちゃんと言ったぞ」

「えっ?」

憶えが無い…ん?待てよ……確かあれは………

テレビの再会番組を見てて……CM中に《実はな…お前には生き別れの妹が居るんだ》って…

あの時はテレビを見た後の流れでの冗談だと思ってたけど……まさか……

「あれはテレビの再会番組を見てた時……」

「やっぱりそれか!あれは間が悪いだろ!」

「出来るだけソフトに気付かせたかったと言う親の気遣いが分からんのか!」

「分かるか!ソフト過ぎて冗談だと思っただろ!」

喧嘩腰になり始めた俺たちを母さんが俺を、朝美が親父を止めた。

「とにかく!……まあ、最近叔父さんが大病を患ってな、経済的に向こうも不安定になってしまったんだ。そこで俺たちもそろそろ経済的に余裕が出来たから、遂に朝美を引き取る事にしたんだ」

あ…頭が痛くなってきた……

「分かったよ……」

その言葉を聞いた瞬間、朝美の顔がぱっと明るくなって身を乗り出す。

「ほ、本当?」

「てか、当たり前だろ。マジで妹なんだし…」

「あ…ありがとうお兄ちゃん!」

ガバッ!

「たわっ!!!??」

いきなり朝美が俺に抱き付いてきた。

ガンッ!

一瞬で頭に血が上り、クラッとしたと思った途端、壁に頭を強烈に打ちつけた。

「お、お兄ちゃん!?」

戸惑う朝美の声がブラックアウトする視界と共に薄れて行った……



「……ん?」

目が覚めた。

まず眼に入ったのは白い天井に白く輝く蛍光灯ランプ……

体を起こすと見知った部屋の間取り。

間違い無い、俺の部屋だ。

外は既に闇と静寂の世界になっている。

「………夢?」

辺りを見渡すがどこにも女の子の姿など見当たらない。

「そうだよな…いきなり妹が出来るなんてそんな話夢でもなくちゃ……」

ガチャ…

「あ、お兄ちゃん起きたの?」

大・現・実ーーーっ!!!!???

「もう、急に気を失っちゃうんだもん、びっくりしちゃった」

はにかむように笑いながら俺の後頭部に朝美が手を回す。

「なななななななななな!?」

いきなりの行動に頭に再び血が上る。

「痛くない?」

「へっ?」

「何だか強くぶつけたみたいだったから…」

「あ?ああ!もう平気平気!」

さり気無く朝美の手をどかして俺は離れた。

「どうしたのお兄ちゃん?顔、真っ赤だよ」

「そ、そう?」

「くすくす…変なお兄ちゃん」

ああああ!!!もう何が何だかわからなくなって来た……

「あ…あのさ…確認しても良いかな?」

「え?」

「君は…えーっと、朝美は俺の妹なんだよな?」

「うん」

「俺の一歳年下で…」

「うん」

「16年間北海道の叔父さんの所で育ててもらってたんだよな?」

「そうだよ」

や…やっぱり夢じゃないのか……

「も……もしかして迷惑だった?」

気付けば潤んだ眼差しで朝美がこちらを見つめている。

「そ、そんな事ないない!!!」

「良かった…嬉しい!」

ガバッ!

「どわーっ!!!」

また朝美が俺に抱きついた。

しかし、今度はすぐに朝美がパッと離れた。

「ご、ごめんお兄ちゃん。私嬉しくなるとつい抱き着いちゃって…」

…なんて俺の心臓に悪い癖だ…

世の男どもなら嬉しがる所だろうが免疫のない俺には寿命を縮める以外の何者でもない。

どんどん恥ずかしくなってそのまま俺達は黙り込んでしまった。

しかし…改めてみるとこの朝美、結構…いや、かなり可愛い。

俺の鼻ぐらいまでの身長で、肩まで伸びたサラサラの少し茶色がかった黒髪。

身内びいき(と言うより出会ったばかりでしようもない)ではないがアイドル並の可愛さだった。

しかし、このまま二人で沈黙しているのは間が持たない……

「と…とにかく今日はもう寝るか」

「う…うん…」

寝ると言った途端、朝美の様子が変わった。

「どうしたんだ?」

「あ…あの…その…」

朝美はやけにもじもじして言い出し辛そうだった。

ちょっと苛立ちもしたが、なにぶん初めての環境だ、少しは我慢することにした。

「その……お父さん達が『この部屋で寝なさい』って…」

「ぶっ!な、なにぃーっ!」

「な、何だか私の分のお部屋のスペースが無いらしくて…それで…一緒に部屋を使えって…」

親父達…俺の体質知ってるくせに……

「あと、『まだ会ったばかりで慣れないだろうから一緒の部屋で早く仲良くなりなさい』って…」

……まあ、親父達も俺たちの事が一番気になってるんだろうな…

「め、迷惑だったら私、下で寝るし…」

無言を俺の否定に取ったらしい。

「べ、別に迷惑じゃないけど……」

「…………………」

「…………………」

だあああ!何だこの間は!

それに俺、もしかして今、勢いでとんでもない事承諾したかも…

「と、取り敢えず、俺、床に布団敷くからさ、朝美はベッドで寝ろよ」

俺の言葉に赤い顔のまま朝美は頷いた。




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