「わっ!か…和斗!お前どうしたんだ?」 結局、俺は昨夜、一睡も出来なかった。 当然だ。今まで女の子と手も繋いだこと無い人間がいきなり同じ部屋で一夜を共にしたんだ。 時折漏れる寝言…寝返りの度に起こる衣擦れの音…そのあまりの無防備さがが俺の神経を一時も休ませてくれなかったのだ。 と、まあそう言う訳で、一睡も出来ずボロボロになっている俺を友人の雄治が見つけたという次第だ。 「何かあったのか…?」 「…青春時代は色々とあるんだよ……」 自分でも意味不明な発言だと思った。 案の定雄治は疑問符を浮かべている。 「そ…そっか、まあ頑張れよ」 何でだろう…気休めがやけに落ちつく…… 「まっ、そんな眠気も一発で吹き飛ぶニュースがあるんだけどな」 「…何だ?」 雄治はニヤニヤしながら俺の肩に腕を回して顔を近づけた。 こう言う時のこいつは女の話の時だ。 高校入学から一年間付き合ってきてよく分かった。 「い・ち・ね・ん・せ・いにめっっちゃくちゃカワイイ女の子が転入してきたらしいぜ」 「へ〜…」 やっぱり女絡みか…… 以前本人から聞いたのだがこいつの高校入学の理由は彼女をGETする為らしい。だからこの手の情報はかなり早いし正確だった。 しかし、手当たり次第にちょっかいを出している為、女子の間ではブラックリストに載っている事を俺は知っていた。 「でさ、昼休みに一緒に見に行こうぜ」 「ったく、結局お前の付き合いじゃねえか」 「まあそう言うなよ、ホレ、眠気覚ましにガム」 「 お…サンキュ……」 バチィィン!!! 「っってー!」 「ハッハッハ!昔懐かしトラップガムだ!目ェ覚めただろ」 ガムを引くとバネが作動して手を挟む。 こ…こんな古典的な手に引っかけるとは…おのれぇぇ! 「うわ〜おぅ、結構混んでるねぇ」 「お前と同じ目的だろうな」 案の定、突如現れたアイドルを人目見ようと教室の前を色目気だった男どもが埋め尽くしていた。 クラスの人間にしてみれば出入りの良い迷惑だろうに。 飯を食っていて出遅れた俺たちはそんな黒いバリケードの外で立ち往生せざるを得なかった。 「まあ、昼休みも終わりになれば少なくなるだろ。その時にまた来たらどうだ?」 「……仕方ない」 心底残念そうに雄治は俺のあとをついてきた。 「おおおおお!!!」 突如、後ろの男衆が感性を上げた。 「あの…すいません…通してください」 と、声が聞こえた。 その後に「あっ!」と、声がして、とたとたと走る音が近づいてきた。 「おい、和斗……」 先に振り向いた雄治が俺を突付いた。 そして俺も振り向く。 「何だ?…って!」 「わーい!見ーつけた♪」 ムギュッ! その刹那、急に視界が塞がれ、柔らかい感触とシャンプーの甘い香りがした。 俺は状況を理解するのに数秒かかった。 ……何で俺は女の子に抱きしめられているんだ? 「うわああああ!!!」 状況を飲み込んだ俺はパニックになった。 「……まさか」 俺は女の子を引き離すと顔を見た。 「あ…朝美!?」 朝美はきょとんとした顔で俺を見ていた。 「何でお前ここに……うげっ!」 周りを見ると一年生どもが好奇と驚愕の目で見ている。 そして朝美の後ろでは…… 「うおおおおおおお!!!!!!」 と、先ほどの男衆が血の涙を流し、悲鳴(怒号?)を上げていた。 やばい…何だこの殺気はーっ!!! 「か…和斗…お前、いつの間にこんな可愛い子…」 雄治がよろよろと青ざめた顔で後ずさった。 「違う違う違うー!」 「あ、お友達?」 一人、状況を飲み込めていない奴が場違いな挨拶をする。 「初めまして、朝美って言います」 「いやいや、これはご丁寧に………」 「あのな、雄治。これには訳が…」 「ねえねえ、もうお昼食べた?」 「ん?ああ、まあな」 会話を遮って無邪気に俺の腕を引き寄せる。 「それじゃ学校案内して♪」 「お、おい!」 そう言って朝美は殺気立った群集を背に俺をぐいぐいと引っ張る。 突き刺さるような視線を体中に浴びるのがわかる。 た、頼むから…恥ずかしいから腕を組むのはやめてくれ〜……! キーンコーン…… 「終わった〜」 六時間目が終わって俺は燃え尽きていた。 でも、この後に部活があるんだよな… 「仕方ない」 と、俺は筆記用具や教科書を適当に鞄に放り込むと立ち上がった。 「おい、誰だあの子?」 「カワイイな〜」 足が止まる。 急にクラスの男子どもの様子が慌ただしくなった。 「あんな子、この学校に居たか?」 「今日、転校してきた子だよ」 口々に情報を交換している。 嫌な予感がして来た…… 「あ、居た!」 その人物は俺の教室の入り口で止まったようだ。 「和斗おにーちゃーん!」 「ブッ!!!」 朝美の奴は大声で俺の名を呼んだ。 「お兄ちゃんーーーーーーーーーーっっ!!!???」 クラスの男どもの目が一斉に注がれる。 「一緒に帰ろう」 だだだだだだだだだだっっ!!! 俺は目にも留まらぬ速さで朝美を捕まえるとダッシュで昇降口に連れていった。 「はあ…はあ…疲れた…」 「どうしたのお兄ちゃん?」 朝美はきょとんと首を傾げている。 こいつ…どうやら相当の天然系と見た。 「いいか…頼むからあまり大声で呼ばないでくれ」 「え〜!何で?」 「恥ずかしいの!」 「私は恥ずかしくないよ」 屈託無く朝美はニッコリと笑う。 「俺が恥ずかしいの!あんまりお兄ちゃんお兄ちゃん言うな!」 「はーい、分かったわよ…」 プーっと頬を膨らませる。 でもすぐに笑顔に戻って、 「じゃ、お兄ちゃん、一緒に帰ろ?」 と、腕を絡めてきた。 「あ………」 顔が見る見るうちに熱を持ってくるのが分かった。 「お、俺、部活があるから先、帰ってろ!」 ガチガチになった俺は朝美の腕を引き離し、逃げる様に部活に向かった。 |
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